垣根の垣根の百物語

PSP俺屍Rの自分の一族とか某inb氏の一族の話とか ネタバレあります。

太陽、お茶、流木

烈香様。風流当主。

 

 

 太陽が不快な暑さを投げかけてくる。初めて感じる「夏」の最中にあって、私は苛立っていた。
 我が一族も、だいぶ力をつけた。鬼から分捕った宝物を売り払い、復興のすすむ京では随一の物持ちになったといえるだろう。

「ええ、ええ、こちらが流木を用いた香でございます」

 だからこうして行商人が家に来ることが増えた。金のにおいがするところには人が集まる。

「こちらはかの最澄大師が手ずから箱を作ったという伝のある茶器でございます。どうかお召しくださいませ」

 このように家に来るものは皆、皮一枚めくれば鬼の顔とさして変わらぬ。成り上がりの脇下一族からいかで財産を奪い取ろうか、欲の面を必死で抑えつけ、薄絹より猶薄い紗を一枚隔ててこちらに笑顔を向けている。であるから彼らの笑みには影が透けている。体の良い微笑みの一枚向こうに、欲深な皺が深く刻み込まれている。巾着切りの体には、巾着切りの礼をもって返すが良かろう。

「しかし、やはり値段が高いな。私たちにもそれほどの余裕があるわけではない」

 復興基金は軌道に乗ったばかりだ。事実、そちらに回す金などない。

「ですが、しかし……どれも二度はお目に掛かれぬ品ばかりでございますよ? 風流を解する皆々様には、もちろんご理解のことと存じますが」

 ちらとこちらを見る視線。商売人としての腕は確かなものなのだろう。事実、これらの品は良いものばかりだ。帝に献上すればそれなりの褒美をいただけるだろう。にも拘らず私に勧めてくるのは、出し抜けると思っているからだ。

「いや確かに、私にはもったいないものばかりだ。お引き取り願おう」

 行商人は深々と礼をして部屋から罷り出た。イツ花が見送りに席を立つ。

「……烈香様、良いのですか? あなたの興味を引くものであったのは確かでしょうに」
「……いや、今はいいんだ。私には皆が取ってきてくれた茶碗がある」

 戸棚においてある無一文茶碗。売れば小銭くらいにはなるだろうか。

「私はこの茶碗で飲む茶が一番うまいよ」

 ただ、この今のような時間だけが、うだるような浮世の熱を寛がせてくれるのだ。