垣根の垣根の百物語

PSP俺屍Rの自分の一族とか某inb氏の一族の話とか ネタバレあります。

赤、隼、恋文

ばねいず。ストレート。

 

 

世間も知らない子猫が来た。そう思っていた。
彼女の瞳は、どこまでもまっすぐ、ただひたすらに強さだけを見据えていた。
誰より戦の才に愛された彼女には、神格の劣る私がどう見えているのだろうか。いつからか、そんなことを気にしていた。
私には鷲のような鋭さもなければ、隼のような煌めきもない。ただ呑気に飛ぶだけの私を、彼女はいつまで見てくれるだろうか。
千年の時を生きる神がそんなことを思うなんて。
恋文を書くのなど、いつぶりのことだろう。これではお輪のことを笑えない。
筆をとったはいいが、いざ書こうとすると何も思いつかない。言葉を弄してきた私の手では、どんな万感を込めた一言であってもただ軽薄な戯言となって紙を上滑ってゆくように思えた。

「天神様」

不意の声に虚を衝かれる。彼女はいつも通りの表情の読めない顔でこちらを窺っている。
笑みを返して取り繕う。和泉は首を傾げ、そっと近づいてくる。

「どうしたのですか、天神様」
「どうしたの、って」
「いつもと、違うように思えたから」

和泉がそっと私の耳に触れる。ひんやりとした彼女の指先が、静かな落ち着きとなって私の心に染みゆく。

「いつもと違うって……?」
「いつもは、その……もっと素敵な言葉を、たくさんくれますから」

和泉の顔は、よく見るとほんのり紅い。少しく上がった体温が、和泉の指を介して、互いに伝わっていく。
ああ、私の心などはとうに知れていたのだなと、ようやく気が付いた。