垣根の垣根の百物語

PSP俺屍Rの自分の一族とか某inb氏の一族の話とか ネタバレあります。

人形遊び

嘗若丸。彼の人生。

 

 

何もしなくともすぐに尽きる命だ。どう使おうと俺の勝手だ。

 

そう思うようになったのは、いつ頃からだろうか。
母の弓の代わりに、顔も知らない祖父の剣を握らされた時からだったか。その母の技を、いけ好かない従兄が復活させた時か。それとも、初めて好きになった年上の町娘が、次に見たときには自分よりもはるか幼い姿に変わっていた時か。よく覚えていない。

とにかく俺は、母を作り、俺を作ったこの家が嫌いだった。別に母を取られたように感じたからではない。母も従兄も、この狂った家の被害者に過ぎない。
ここでは、俺は人ではない。ただ戦うために生を受け、訓練をし、鬼を殺し、また戦うための子を作らされる。満ちて引く潮のごとき繰り返す営み。そこには俺の意思は存在しない。悲願とやらの前に俺の自由は捨象され、踏みにじられ、冒涜される。
さらに悪いことには、家の誰しもが自分を人間だと信じていた。ただ何の疑いもなく、人としての生活を繰り返していると信じ込んでいる。俺を人間扱いしないでくれるような家族はただの一人もいなかった。その身のままならなさを嘆くこともせず、人間らしく喜んでみては、また悲しんでみせる。それが俺は何より嫌いだった。

母から、伯父から、従兄から。人としての情を受ければ受ける程にこの家の狂気はおぞましさを増す。そしてさらなる戦いへと駆り立てる。頬を流れる血が鬼のものとも自分のものともわからなくなるまで、殺し続けることを強いられる。ただ一体の「剣士」として。

 

こんなことをしていても、俺は人にはなれない。ただ神の僕としての箔がつくだけだ。
だから、家を出ようとした。そうしたら、妹に泣いて止められた。あぶく銭にしかならないような茶碗をいくつも渡され、どうか行かないでくれという。
その時、俺は確かに聞いた。逃げられないぞ、と笑う声。俺をあざ笑うかのように軋む家の声を。俺は全てを悟った。ああ、俺はどこにも行けない。

この狂った家は、俺達の人たろうとする動きすらも捕まえて、人質にとる。そして、その姿勢のまま俺たちは人であることを捨てさせられる。やつはそれをにやけた面で眺めている。
その上、俺たちの體への指一本、髪の毛の一筋に至るまでに固く結びつけた傀儡糸を、見せつけるようにきらめかせるのだ。糸は我が家の中で最も神聖な空間―――神と交わる幽冥の間から、針山のように無数に伸びていた。

そんな糸が、彼等には見えていないのか。そう思えるほどに皆呑気で、お人よしで、人を疑うことを知らない。だから簡単に踊らされる。だから簡単に騙される。今もこうして俺のくだらない我儘の為に、しなくてもいい進軍を続けている。

 

「兄さん、もう帰ろう。休んだ方がいい」
「……うるさい。俺はまだやれる。進ませてくれ」
「でも、兄さんの体はもう」
「黙れ、碧流丸。まだ、進むんだ。……いいな、はぜる」
「……はい」

 

結っていた髪を後ろ手に掴む。それをそのまま半分ほど切り落とした。これで少しは、逆らえるようにもなるだろう。
神をまつる大鳥居をくぐり、その最奥に居座る女狐を殺すのだ。俺にとっては天界最高神とやらも朱点も同じだ。ただ俺を縛り、愛するものを縛り、くだらない人形遊びに興じる下郎。そんなものに付き合ってやる義理は毫ほども持ち合わせていない。だからこそ、目の前の鬼を切る。呪いも、朱点も関係ない。ただ、家族を、息子を、そしてあの人を。その顔を歪めさせる全ての障害を、一つでも多く、ただ払いのけるだけだ。

 

貴様らのためになど、家のためになど、誰が死んでやるか。ざまあみろ。