いくののみちの とほければ ~1022年 十二月~
さて。
十二月になりました。
今月、大江山に上ります。もはや何の説明も要らないでしょう。ただ、目の前の鬼を、宿敵を撃ち滅ぼすのみ。
討伐隊は、尚武・実梨・志穂・菫。現在ある最大の戦力をぶつけます。正直五郎ズに苦戦をあまりしなかったとはいえ、攻撃は通りが悪いんですよね。回復が追い付いたか、或いは連撃が上手くハマったかの問題でしかなくて。雷電をとっとと落とせたから圧倒的に楽になったものの、奥義を誰も覚えてない関係上、通る攻撃があるかどうか、というのが非常に危険な境目になります。……ということで、ある程度メタいんですけど、秘策を用意してました。
それは、時登りの笛。前回の大江山。楓の最後の出陣の時に、一つとっておいたものです。まあ、訓練する、というのも一つの目標なんですけど、それ以上に欲しいのは、ここで確定で出る赤い火。赤い火です。……つまり。竜神刀。これを取ります。威力130。水属性攻撃・眠り付与。今回のメインアタッカーは、実梨です。現在彼女は一歳八ヶ月。きっと最後の出陣になるでしょう。いや、しなければいけない。その彼女の力の全てを、惜しみなくこの刀に注ぎます。
一族的には後悔しない程に戦ってから、というイメージが強いでしょう。現在の彼らであれば崇奈鳥大将を相手の行動前に仕留めるくらいは造作もありません。よって、技力の消費なく戦い続けることができます。
さて出陣。赤い火は灯っていません。まあ、予定通り。
まあ、仁王達は触れる所なんてないですね。尚武に攻撃を少し集めて、串刺しにするだけです。楽勝。こんなところで立ち止まっていては、朱点打倒なんて夢のまた夢。
このまま、最後の火になるまで大江山の鬼ども……大江京・朱雀大路の鬼どもを狩りつくします。すべて狩ってはまた隣のエリアへ。そしてそこの鬼を殲滅して回る。修羅の如く。それは覚悟の証。ここで終わらせる覚悟です。
満を持して、時登りの笛を使用。赤い火になるまで鬼を倒し続けます。矢張り思い出されるのは、昨年の楓の大立ち回り。あの時はその集大成。彼の生きた証として、疾風剣楓を形にすることができました。しかし、今は誰も。実梨ははがゆい思いをしているでしょう。何と言っても、父は当主。同じ魂を分かつ者でありながら、自分は当主になれなかった存在。そして、先代の剣士は誰よりも武勇の才に愛された男。一族で唯一の奥義を編み出した実績を持つ、迅き刃。
でも。
そして、赤い火を狙い、満を持して相対する一族にとって初めての相手。朱点閣去る橋を身一つで守る鬼の大親玉。石猿田衛門との勝負です。
狙いどおりの竜神刀がスロットに止まってくれました。止まらなかったらどうしようかと思った。ついでに石猿の巻物。めっちゃおいしいけど朱点戦では使えませんね。あと一個はなんか。忘れました。多分茶碗。
さてやつが何かを仕掛けてくる前に、一気呵成の勢いで出来るだけ大きなダメージを与えてしまうのが良いでしょう。何よりもまず先手を取るのが菫。せっかく手に入れた萌子を尚武にかけます。萌子は志穂以外の三人が使えますので、基本は志穂と誰かが殴り、他の二人がサポートに回る、というのが攻撃を考えれば理想的と言えるでしょう。特に菫は何をやらせても強いので、最もやばいときの回復役は彼女ということになります。一回重ねて殴れればとりあえずは良し。あとは防御を固められる前に出来るだけ攻撃数を稼いでおきたい気持ちもあり、全員で攻撃を叩き込みます。
守備を固められても問題なし。とりあえずは相手が石猿を二度重ねるまでは萌子の重ねよりもダメージの蓄積を優先させます。
先手必勝、というより、攻撃機会の増加を狙った側面もあり。特に菫はその意味でできれば攻撃役になりたいんですよね。そしてそれは功を奏すこととなります。菫の改心、それによって石猿田衛門は、思ったよりもはるかにあっさり沈みました。
実梨の手には、竜神刀が渡されます。これが実梨の生きた証となるでしょうか。最後に手にした、最強の刀。仮に身に余る力だとしても、彼女にはその刀を使うほかに道はありません。それが今、出来ることの全てなのですから。
さあ、あの鬼の待つその先へ。
彼は、ふてぶてしくその場に鎮座していました。一族の祖をその手で殺めた、まさにその場所で。
今彼らの眼に入るものは、ずっと待っていたそれは、大きな笑いを浮かべ襲い掛かってきます。恐れ?そのような感情を抱く面々ではありません。ただ、嫌な予感を抱えていたり。気負っていたり。武者震いをしていたり。
そんな中、尚武は静かな、静かな怒りを抱えていたことと思います。もう、多くは使うことのなくなっていた当主の指輪。その力を解放し、祖の力を現世へと顕現します。彼の怒りは一族の怒り。一族の怒りは、皆の気を引き締める一撃となって、かの赤鬼に手傷を負わせました。
そうして、すぐに実梨へ萌子を集中させます。彼女が今回の主役です。
ただ。鬼の一撃は決して、決して軽くない事。その巨体でののしかかり攻撃。そしてもう一つ。尚武の技量は、長期戦において回復役に専念できるほどの量がない事。この先の展開を彼は当然予測したでしょう。長期戦になればなるほど、分が悪い。
すぐに尚武は萌子の分散を図ります。対象は自分。単純に、殴る役目になればなるほど術を使う機会は減り、また体力の高い彼の良さを発揮する前衛としての力を発揮し得る位置です。陣形は、前衛:尚武ー実梨/後衛:志穂ー菫となりました。それぞれがそれぞれのできることを。志穂は回復、菫は攻撃強化と、隙を見て前衛に躍り出ての連撃。残りの二人は、体力の許す限り攻撃あるのみ。
しかしすぐに、朱点の攻撃。その口からのおぞましい臭気。集中力と判断力を削ぐその搦め手は、彼への一撃を軽からしめるに十分な影響を及ぼしました。
技力も残り少ない中、萌子をしながら回復に専念する後手。かなり危機感がありました。そこで志穂がまた一つ、手を打ちます。
懐から取り出だしたるは七光りの御玉。回復が出来ればとりあえず良し、出来なくても攻撃手段となれば今の自分たちよりは良し。
泉源氏お紋様はその力をもってして激流を呼びだしてくれました。決して重い一撃ではありません。然し、これは今の一族が喉から手が出るほど欲しい「まともに通る一撃」だったのです。
萌子を積み切る余裕が欠けている以上、その準備を整えるのは回復と並行しながら、つまり朱点の攻撃をずっと受けながら、ということになります。またあの搦め手で来られた場合に、立て直すことはできるのか。そもそもあの鬼を削り切ることはできるのだろうか。一抹の不安がよぎりました。
もう一つの御玉を使いました。尚武が呼び出した、春菜様。皆の守備を固めてくれます。こうして、一つ安定して戦える要素がつながりました。
回復が間に合うかどうかは、この世界の戦闘において死活問題と言っても差し支えありません。回復がギリギリ間に合うようになったこのタイミングで、彼らは初めて優位に立ったと言えたのでしょう。
そして、その時は訪れます。最優先で火力を戻していた実梨の一撃。永遠の眠りを誘う一撃で、光がすべてを包み。数多くの神々がその姿を現し。鬼の眼が昏く濁っていき。「鏡」が、「割れ」ました。
そこからのことは。彼らの眼に焼き付いて、きっと離れないでしょう。
天国からの、地獄。あいつの嗤い声。何も変わらぬ現状。手合わせをせずとも伝わる、彼我の力量差。緑の忌まわしき宝珠と、あの顔の痣。
終ったと、思ったのに。
まだ踏み入る事すら許されぬ世界。「それ」を、じっと睨みつけることしかできない。
復讐を遂げる日まで 安らかに眠るなかれ